整備日誌    2003年10月編

2003年10月19日
とっても久々の書き込みです。ネタがなかったわけではないのですが、なんか書き込みをしていませんでした。
そんな久々を飾る今回のクランケはマルゾッキJr.Tの2001年仕様。
ストロークは150ミリ。昨今のJr.Tほどロングストロークではなく、でもその前の世代ほどストロークが短いわけではなく、ちょうどその過渡期という感じでしょうか。というのがバラしていくうちにもよくわかりました。
バラシの図さて、今回はストロークを上手に使いたいという依頼。実際素押ししてみるとカタイ。ホントにカタイ。体重60キロ程度の私が押した程度では半分もストロークしない感じ。オーナーのMRMT氏は私より体重ありますが(失礼)、それでもこれは硬いでしょう。
素押ししてこの硬さはおそらくスプリングが原因であろうと考え、まずはバラします。
スプリングを抜けばインナーチューブはスムースに摺動しますのでスプリングもしくはダンパーが原因と断定しました。
バラすと右写真のように2本のスプリングが出てきました。調べてみるとこのスプリング、当時のZ−1ともっと昔のZ−2のスプリングそのものなんですね。それを2本直列に入れて使用しています。
まあ、それはいいのですがそのスプリングの素性を調べてみると、どうやら超超硬いやつと硬いやつの2本立てということがわかりました。これがストック状態。
気持ちは分かる。しかしこれってずいぶんやりすぎのような....
と言うのも、スプリングは巻数で(もちろんこれだけじゃないけど)レートが決まってきます。巻数が多ければレートは下がります。勘違いしやすいのですが、同じスプリングを2個直列に並べるだけでスプリングのレートは半分になります。
蛇足ですが、今のように自動車用ローダウンスプリングなんて物が無かった頃は、お兄さん方はスプリングを一巻半カットとかやっていました。これの目的はスプリングの自由長を短くして車高を落とすことだったのですが(いわゆるシャコタン)、同時に巻数も減っておりますのでレートも上がっていたのですね。まあしかしこのやり方だとプリロードをちゃんととれないので、コーナーイン側の足はしっかりと接地できずコーナーリングフォースを発揮しづらい状況ではあったと言えるでしょう。けど、安易にバネ切っちゃうようなお兄さん方にはそんなこと関係なかったんだろうなー....。

ま、そういうわけでマルゾッキ社としては「2個並べるんだから硬いスプリング同士でやらなきゃふにゃふにゃになっちゃうでしょう」と判断したのでしょうね、だからレートの高いスプリングを組み合わせたのでしょう。そういう意味で気持ちは分かると書いたのです。が、物には限度ってものがあって....
と言うわけでスプリング交換。
とは言うものの、本当にスプリングが原因なんだろうかとちょっと弱気になり(^^; とりあえず2本とも(左右で4本)ソフトスプリングに変えてみました。ら....
やっこい。すごくやっこい。これはちょっとやりすぎでした(^^ゞ
またスプリングの反力が弱くなったせいで、リバウンドダンピングが効きすぎています。最弱にしても戻りが遅い。
後述しますが、マルゾッキのサスペンションって外部にダンパー調整機構がないモデルでも、実はトップキャップを開けることによりリバウンドダンピング調整のできる物がほとんどです。知らなかった方、今一度購入時に一緒にもらった説明書やら付属品一式を見て下さい。ながーいHEXが入っていませんか?これでリバウンドダンピング調整ができます。MRMT氏にも押してもらいましたが、やっぱり柔らかすぎと言われました。でも原因は確実にスプリングということもわかり、あとはどのスプリングを選定するかで解決すると確信し、意気揚々とまたバラします(本当は面倒くさいけど)。
と言うところで次回に続く。

2003年10月20日
出てきたオイルそういうわけでまたバラします。昨日のアップで画像載せ忘れたのですが、開けて出てきたオイルは右写真のように(ちょっとわかりづらいですが)きれいなオイルでした。オーナーのMRMT氏曰く「あまり乗ってないから....」と言うことでしたが、昔のマルゾッキを知る者としてはもっとすごい色のオイルが出てくるものかと思っていました。
さて、ここでダンパーの写真を下に載せます。
Jr.Tはオープンバスタイプのダンパーユニットなんですが、このユニットのてっぺんに昨日書きましたリバウンド調整ネジがあります。取扱説明書によると右に回すと減衰力が上がり左に回すと減衰力が下がることになっています。が、どういじっても右に回すと減衰力が下がるような感じ。
ダンパーで、左写真を見ると、ユニットの上の方に穴が見えます。金色のロッドを回すとこの穴の面積が変わり減衰力が変わるのですが、右に回すと穴が広がり左に回すと狭まります。
ということで取扱説明書の記述は間違いと言うことが確証されました。
さて、オイルの番手を下げてスプリングを再度入れ替えて組み上げます。
素押ししてみるとなかなかいい感じ、というかかなりいい感じ。これは楽しみということで先日富士見に行ってMRMT氏にフィーリングを尋ねたところかなり良いとお言葉を頂きました。作業した人間としては大変うれしいお言葉です。是非私も試してみたかったのですが試乗しませんでした。なぜって?それは他ならぬ私のバイクのフロントフォークのフィーリングを試したかったからです。
そう、私のバイクのフォークがイマイチ(どころではない)フィーリングが悪くセッティングを変えてきたところだったんです。まあ良くはなったものの理想にはまだ遠い....と言うわけで苦悩がはじまりました。


2003年11月25日
始まった苦悩は解決してから(解決するのだろうか?)まとめて書き上げるとして、次のクランケを紹介。またしてもサスペンション。それ以外にも作業としてはあるのですが、サスペンションが一番ネタにしやすいというのは事実でもある。
さて、いつもお世話になっておりますKMGI氏よりマルゾッキスーパーフライのオーバーホールを依頼されました。
このフォークはおそらく当時ロックショックスからSIDが出た頃、それの対抗馬としてマルゾッキ社から発売された物と思われます。と言うのも、マニュアル等をみても、このフォークだけ他と比べてスペシャルだったりするところが多いようなので、急遽対抗馬が必要だったのでしょう。名前だってSUPER FLYだし。
さて、そんなSUPER FLY、肝心要のエアがうまく入らない(漏れちゃう)ということで、ついでにオーバーホールです。
まずはオイル排出。すると出てきたオイルはご覧の通り非常にきれいなオイル。これは意外でした。と言うのもこの当時のマルゾッキは(ってしつこく書いているなー)スプリングやらダンパーロッドやらが擦れ合い、どうしてもそのカスでオイルを汚してしまいがちなのですが、かなりきれいなオイルでしたので。
ま、考えてみればコイルスプリングじゃなくてエアスプリングだし、後々バラしていくと、ダンパー機構も全然違うからということがわかりました。
さて、作業はどんどん進みます。インナーチューブを抜いてダストシールを外すとオイルシールが見えます。すると、ダストシールの下には泥が結構見受けられました。ダストシールでは止めきれなかったほこりや泥がオイルシールでせき止められていたようです。
それにしてもオイルシール、よくぞ泥やほこりを止めていたものだ。
と言うのも、この当時のダスト&オイルシールは結構ショボくて、交換しても1シーズン過ごすとオイル漏れが起きることが多かったものです。よって、その都度これらを交換するのですが、そのたびに入手するオイルシールの色や形状が違ったりしました。さすがに最近は摺動抵抗とオイル漏れとのバランスがわかってきたようで、ここ最近仕入れる物は形状も一段とリッパ(?)になり品質も安定してきました。
そういう前科があるオイルシールなのによくぞ泥やほこりをせき止めていてくれました。あんなにきれいなオイルが排出されるくらいですから。
で、左が全バラシの写真です。エアサスだから当然コイルスプリングは入っていないし、そのかわりエアの機密保持のため、シール類は多く、しっかりとはまっておりました。

ついでにダンパー部のアップ写真を下に。

アジャスターロッドを緩めるとオリフィスが開き、リバウンドダンピングが弱まります。 アジャスターロッドを閉めていく方向に回すとオリフィスは閉じてリバウンドダンピングは強くなります。ここまで閉じてしまうわけだから、この状態で乗るとかなり戻りは遅くなります。 左のダンパーロッドに装着されている白いカラーを外した状態。
よーく見ると、これって一体物になっております。大きなワッシャーと、1段細くなっている部品と、半円状のくりぬきをした部品を組み合わせているのではなく、全て一体物。これ結構手間かかっています。

と言うわけで、バラスほどにお金のかかっていることがわかるサスペンションでした。
組立後自転車に装着して試乗すると、その乗り味はSIDというよりMAG21っぽい乗り味 (^^;
当時エアサスのロックショックスかエラストマーのマニトウかという頃、ロックショックスからMAG21の進化版として登場したのがJUDYシリーズ。JUDYを押したときには「これぞ正常進化」と思った物でした。MAGは少ないエア室が数キロのエアで満たされていることから、動き始めは突っ張るような抵抗感があるにもかかわらず、動き始めるとヘニョって感じで頼りなくストロークしてしまった物でした。
そんな数年後、JUDYの上級機種としてSIDが登場しましたっけ。そんな情報を知ったとき、「なんでまたエアに戻るわけ??」と疑心暗鬼でした。が、いざ装着して乗ってみるとすごくいい感じ!これぞ望んでいたクロカンサスペンション!と思えるできの良さでした。その秘密?はデュアルエアによるポジティブ&ネガティブエアによるものなんでしょう。突っ張るだけのエアサスから、ちゃんと吸収するエアサスになったのでした。
そういう観点から見るとMARZOCCHI SUPRE FLYはMAG21的に感じてもあながち間違いではないと思います。が、しっかりダンピングの効くリバウンドによりMAGよりいい動きをしてくれました。

この際だからこのノリで書いちゃいますが、ロックショックスの初期型が出た頃、雑誌や巷の評判ではサスペンションが沈み込むことによるパワーロス等を指摘しつつも、「これはすごい」とか、「違反だよー」などと騒がれていましたっけ。けど、私はそうは思わなかった。
当時ロックショックスの初期型やマニトウの初期型のストローク量は、今となってはたかだか40ミリ弱。ストローク量もさることながら、動きの質も最近のサスペンションと比べるまでもありません。無いよりはマシかもしれないけど”サスペンション”という響きから期待する動きをしてはくれませんでした、少なくとも私には。
JUDYは確かにMAGの正常進化だとは思ったけどやはり延長線上にしか思えず、期待値とは異なる物でした。
そうこうしているうちにあのSHOWAからXRという73ミリ(後に90ミリに)ものストローク量を誇るDHサスペンション(と言っても当時の水準)が出ました。世間や雑誌では「これはすごい」と騒がれていたけど、やっぱ私としては納得のいく動きではなかった。今までのよりはマシという程度にしか思えませんでした。結局いくらストローク量が増えてもポジティブのみのエアサスでは”期待する”動きとはちょっと違うもののようでした。
と思っていた頃、イタリアのマルゾッキとか言うところからボンバーZ−1というサスペンションが出ました。マルゾッキはモーターサイクルで知ってはいたものの、自転車用としてはまったく眼中ありませんでした。と言うのもそれ以前にも「XCなんとか」ってやつがあったりはしたのですが、見るからに性能良くなさそうだったし、実際トラブルも多いと聞いていたから。ところがボンバーZ-1は見た目からしてカッコイイし、とても興味をそそられました。
ある時弊店に来たある自転車メーカーの営業マンが「こんどのマルゾッキはいいですよ〜、This is a SUSPENSIONという感じの動きをしてくれますよ」と言っていたのが今も記憶に新しい。
きっとこの方も今までのサスペンションには少なからず納得のいかないところがあったのでしょう、”これこそ”がサスペンションなんだぞ!とでも言いたげなその動きに感激したのでしょう。今までのサスペンションに対し私と同じような意見を持っていた人がいるもんだと思い、そんな人が「これこそ」と言うサスペンション、ボンバーZ-1に大変興味を持ちました。するとありがたいことに、そんなサスペンションを装着したいという方が出てこられ、取り寄せて装着。試乗して初めに感じたのは、This is a SUSPENSION!でした。
そういうわけで初めて自分が納得するサスペンションに出会えたわけですから、何人かのお客様にお勧めし何本も装着しました。ある方なんて初めから付いてきた某メーカーのダブルクラウンサスペンション(と言っても今にして思えば100ミリストローク)を外してまでもボンバーZ-1を装着し「変えて良かった」とまで言って下さいました。
まあ下り系のサスペンションですから重いのはネックです。2キロちょっとあります。上記の某メーカーのダブルクラウンサスペンションと重量がほとんど変わらなかったのはちょっと驚きでした。
しかし今までのサスペンションがペダリングロスとの戦いのために?エアサスで進めていたところを、初めて(かどうかは確証ありませんが)コイルスプリング+ダンパーというありきたりの仕様で登場し、みんなを「あっ」と言わせたマルゾッキボンバーZ−1の功績は大きいと思います。
なぜなら以降、各社のサスペンションは急激に進化していったように思われるから。

さて、そんなわけもあって、今までのサスペンションはクロカン系はエア、下り系はコイルという流れでした。当然と言えば当然でしょう。そんな最中、今度のKOWAのSATGE3はDHサスペンションでありながらデュアルエアとなっております。今までの常識を覆すようなサスペンションになっているのか、大変興味ありますね。

以上おじさんの昔を懐かしむ独り言でした。
蛇足ながら....散々文句を書いたMAGですが、私の通勤号にはそんなMAG21の異母兄弟?と言える?スペシャライズドのFUTURE SHOCK FSXというのが未だに装着されております。自慢はカーボンレッグ。MAG21より軽量で、しかも初めからチューニングパーツもしっかり同梱されていたのだ!(けどこのチューニングパーツ、使えない代物だったりする....)
どう逆立ちしても性能的に最近のサスペンションにかなわないとなれば、あとは見た目勝負なのだ (^^;


更に蛇足。
私がはじめて出た自転車競技は岩岳でおこなわれたダウンヒル。今から15年くらい前でしょうか。
当時ニシキのフルリジッドバイクで参加した私は、トークリップ&トーストラップ(懐かしい)がもどかしく、クリップを踏みつぶしながら足が外れないことを祈りつつ走ったのでした。
その当時というのはシマノからMTB用ビンディングペダルの初期型が出た頃であり、同じくロックショックスの初期型が出た頃でもありました。
足が外れないように祈りつつ下った私は、多くの方々がSPDペダルで下っているのを見て、「MTBもビンディングの波がくるのかな」と思ったものでした。と同時に、早速私のバイクに装着しました。
同じくこのレースにあるメーカーの方が来られており、後に聞いた話では、「あの時のレースで上位30名中18人がサスペンションを装着していました。これからはサスペンションの時代になるでしょう」と言っていたのも記憶に新しいなぁ。

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