整備日誌    2006年5月編

5月24日
うわぁ、ほぼ2ヶ月ぶりの更新。ネタは山ほどあるんだけどなんだかちょこちょこ忙しく更新をさぼっておりました。m(_ _)m

さて今回もネタの宝庫、KJ氏が提供してくださいました。
トライアルに凝っておられる氏は以前トラ車用としてホイールをお買いあげいただきました。で、そのホイールのフリーが効かなくなったとのこと。
外してみると右写真のようになっておりました。
このフリーは3つX2列のツメによってハブとかみ合い駆動するようになっています。
このツメは真ん中に通っている細いスプリングでうまく起きあがるようになっており、ハブ側の歯とかみ合いコギ方向にはしっかり噛みあい、しかし後に回すとツメの背がハブの歯を滑ることで1ウエイクラッチとして機能します。
さて外したフリーですがツメがダレて丸くなっているのがわかるかと思います。ダレているから噛みが甘くなると言うのもありますが、ダレによりツメが横方向にもダレ、スプリングを拘束してしまっています。と、当然ツメは起きあがることはできなくなりハブと噛みあいません。
まぁツメは3つもあるのでどれかが引っかかってくれれば…と期待したいところですが、これらのツメはほぼ同時に噛みあうようになっているのですべてのツメがこのようにダレてしまっていました。
これならフリーだけ変えれば何とかなるかな、でもハブ側もダレてしまっているかなと不安を抱きつつハブ側をもチェックする。
歯をよく見るとやっぱちょっとダレてますね。うーん、フリー変えるだけじゃダメか…ハブ組み替えかぁ=ホイール再度組み直しなので面倒だなぁ…などとつぶやきつつ、ところでこの糸みたいな螺旋は何だ?と思ったらアルミが削られたような螺旋。
イヤな予感を抱きつつハブの歯をいじっていたら動いた。動いてよい物なのか?とグイグイ動かしていると、どうやらこれはネジになっていてハブに装着されているということがわかりました。
ラッキー、これならハブばらすことなく=ホイール組み直すことなく、フリーとこの歯を替えれば生き返るじゃんと喜んだのもつかの間、歯が出てこなくなった…ネジ山なめているようです。
アルミの螺旋はちぎれてきたネジ山だったのです。

ここで怒りがこみ上げてきました。
このハブ本体はトライアル用とパンフレットに書かれている商品。
トライアルはハイスピードで駆け抜けることはないものの、大トルクをかけながら、しかしブレーキをぎゅっと握り…とかなり負荷のかかる使い方をします。だからこそそれなりに頑丈な物が要求され、それを謳い文句にしているのならそれを信用して消費者は購入に至るわけです。
ところがこの商品はまったくなっていません。
物である以上絶対に壊れないとは言えません。特にトライアル的使用方法ですから過酷に扱われるので壊れるリスクも高くなるでしょう。
しかし今回の壊れ方は
 ・フリーのツメがダレている
 ・ハブの歯もダレている
 ・歯とハブのネジ勘合部もダメになっている
こんな偶然が同時に起こるでしょうか?しかも購入して数ヶ月。
ここの商品にはトライアル用を謳う商品が多いのですが、今回のハブに限らずここのトライアル商品は壊れることが多いです。過去にもあまり書けないトラブルがいくつか起きていますし。
とてもR&Dなんかやっているとは思えない(あっ、売るためのリサーチだけはやっているかも)商品ばかりで、それっぽい形をした物を海外で安く作ってもらっているだけなのでしょう。


5月29日
そういうわけで悪い見本の次は良い?見本。
これは不具合ではなくメンテで依頼されたあるブランドのハブ。バラしていったらこういう歯車が出てきた。おお〜っ、ドグクラッチ、こいつでフリー機構にさせている。しかし以前バラした同社のやつとは構造が変わっているなぁ。
さて仕組みを解説すると、まずフリーの内面Aとハブの内面Dに歯が切ってあります。そしてその間には2枚の歯車B、Cが入っています。更にこの歯車の内面には斜めに切ったギザギザがあります。

作動を説明すると…
ペダルを漕ぐとクランクを回し、するとチェーンが駆動されスプロケを回します。スプロケはフリーに付いているのでフリーが回される。と、フリーの内側には歯Aが切ってあって、その歯とかみあっているドグクラッチBが回されます。と、ギザギザによってドグクラッチCに伝わり、するとハブ内面の歯Dに駆動力が伝わり車輪が回ります。
さてフリーの回転速度よりホイールの回転速度が速くなると(っていうかフリーが効くとき)どうなるかというと、BよりCの回転速度が上がると言うことですからギザギザは噛みあわず、ギザギザの斜辺を滑るようになります。そうやってフリーが効きます。
なお、ギザギザが滑るときB及びCはスラスト方向に動くわけですが、この2枚はスプリングによって保持されておりスラスト方向へは逃げることができ、スプリングによりまた噛みあおうとします。

さてここでトラブルを起こしたトライアル用ハブを思い出していただきたいのですが、あのハブは3本のツメX2列=6つのツメでフリーはハブを駆動していました。6つしかないので大きな力には弱いと言わざるを得ないでしょう。
では今回のこのハブの場合はどうか?
ドグクラッチの山の数は数えませんでしたが、明らかにこちらの方が多くの歯で噛んでいることがわかります。よってこちらの方が大トルクに耐えることができると言えるでしょう。
逆にフリクションという観点から見ると今回のハブは不利とも言えるのでしょうか。
今回のハブはロードレーサーのホイールに使用されているフリーです。ロードの場合より低いフリクションが求められるでしょうし、トライアルなどでは瞬間的に非常に大きなトルクが(使用するギアなどを考慮しても)かかると言えるでしょう。
フリクションを低くしたい用途に大トルク許容型フリーが、大きなトルクがかかる用途に低フリクションタイプが採用されているなんて、なんとも皮肉なような気がします。ここらはパテントなどのからみもあるのかもしれません。
ま、壊れたトライアル用ハブの名誉のために言っておきますと、多くのフリーはこのトライアル用ハブのようにツメでハブに噛む方式になっているので、これだけが特殊というわけではないのですけどね。


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