整備日誌 2007年2月編
2月8日
今回はデュアルコントロールレバー。
前作960系で初登場し、賛否両論(というか初めは否定的な意見の方が多かったけど)されたデュアルコントロールレバー。
ロードではデュアルコントロールレバーが出たらあっという間に広がったのですけどね、MTBの場合はラピッドファイアーにあまり不満を持つ方もいらっしゃらなかったようで、ちょっと無理矢理と思われてしまったようです。
が、使うと意外やよかったりするのですけどね。
しかし大いなる不満も噴出していました。それがめでたく改善されましたのでご報告です。
ST-M975
変速関係は基本的にSL-M970と同じくインスタントリリース機構やマルチリリース、2ウエイリリース機構を採用しております。
ただ何となくシフトストロークが増えたような気がしないでもないですが。
あとST-M965ではブレーキレバーにシフターが乗っかっているようになっていましたので、操作時にちょっとシフターの重さというか慣性を感じました。
が、今度のST-M975はレバーと巻き取り部が独立しましたのでそういうことも感じないですね。
もちろんシフターには補助レバーが付いています。が、これは慣れてきたら外した方がカッコイイですね。
実際契約選手は慣れてくると外す選手が多いそうです。
さて大いなる不満とは、もう皆さんお気づきのハンドル幅を狭めたときにブレーキホースが干渉しちゃうということ。
で、今度のは今までのデュアルコントロールレバーが嘘のようにコンパクトにまとめ上げられました。
これならハンドル幅を詰めてもよほどのことがない限り干渉することはないでしょう。
そうそう、ST-M975ではリザーバータンクが裏側というか下側に位置することになりました。ので、ブリーディングの際にはレバーをひっくり返して作業する必要があります。
さてこのコンパクト化に大きく貢献したのがラジアルポンプ式のマスターシリンダーです。
シマノではコンパクトにするためにラジアルマスターにしたようですが、実はそれ以外にも大きなメリットがあります。
ってのを説明しようかと思ったけど、そうするとBL-M975でうんちくが語れないからBL-M975にまわそーっと。
2月17日
と言うわけでBL-M975です。今回はくどいです(いつもですが)。
ではいってみましょう。
BL-M975
見た目ででいきますとST-M975と異なりリザーバータンクは上部に付きます。
シフターがないのでスペース的に上に置いても問題がないからでしょう。
そして一番のポイントはラジアルポンプ式マスターシリンダーと言うことです。
ST-M975のところでも書きましたがこれはコンパクト化するために採用されたものでしょう。
実際従来のレバーと比べると一目瞭然です。
ではもう一つのメリットとは、それは効率が良いということです。
オートバイ乗りの方はラジアルポンプ式マスターシリンダーというのをご存じの方も多いと思われます。最近流行っているようですね。
で、なんで流行っているんだろう?と考えたら何となくわかってきました。
ラジアルポンプは効率がいいと聞かされていてもその理由がわかっていない方もいると思いますので一緒に考えていきましょう。
ところでレバー側にマスターシリンダーのピストンを押すタイプをラジアルというのなら、横方向に押す一般的なタイプはなんて呼ぶのだろう?だいたい何に対してラジアルと呼んでいるのだろう?
写真−1
ま、ここでは普通のタイプを反意語ということでアキシャルと呼ぶことにします。
まず写真−1でブレーキレバー操作時を想像して下さい。
通常はレバーはA位置にあるのですが、レバーを握るとB位置まできます。点Oを中心に円運動しているのがわかるかと思われます。そう、レバーの動きはあくまでも円運動。
それをもうちょっとわかりやすくしたのが図−1です。
さて操作によって点Aから点Bまで円運動をするわけです。しつこいですが円運動です。点Aから点Bまでの動きの成分をX軸方向とY軸方向に分解してみましょう。すると線分BC(アキシャル)と線分AC(ラジアル)に分解できます。
図−1
ここでOA=OB=半径だからrとしましょう。同じく角AOBをシータに…あっ、シータは機種依存文字なのでDとしましょう(^^;
BC=アキシャル=OB−OC=r−rcosD=r(1−cosD)となります。
同様にAC=ラジアル=rsinDとなります。
ここで今一度三角関数を思い出すと、sinシータは0度になっていくと0に収束します。
ということでAC(ラジアル)はレバーストローク量が少ないと小さくなってしまいます。
逆にcosシータは角度0に近づくにつれ1に収束します。すなわちどんどん大きくなる。が、BCは1-cosD (わかりづらくなっちゃうからrを抜きにして考える)で計算するとやっぱり角度が小さくなると小さくなる。
ラジアルもアキシャルも角度が小さくなると(握る量が少なくなると)小さくなる。当たり前といえば当たり前ですが。でもそれじゃラジアルの方が何がどう優れているのかわからないってんでもっとわかりやすくしたのが図−2。
同じ握り量でどれだけ変化するのかというのをグラフ化した物。
図−2
青線が線分AC(ラジアル)の変化量で赤線が線分BC(アキシャル)の変化量。
同じだけ握った(同じ角度)時の変位量を見ると明らかにラジアルの方が変位量が多いです。すなわちラジアルの方がいっぱいマスターシリンダーのピストンを動かすことができるということです。
で、まだ続きがあるのですが次回に。
2月28日
上記より、ラジアルポンプ式の方が同じだけ握ってもいっぱいマスターシリンダーのピストンを動かせることはわかりました。
さて油圧ディスクブレーキがなぜ効くのかご存じでしょうか?
ここまで読む気のあるような方はおそらくご存じと思いますがパスカルの原理を利用しているのですね。
パスカルの原理を簡単に解釈しちゃうと、「液体を満たした容器のある面に圧力をかけたとき、その容器内のあらゆる所に均等に圧力がかかる」ということ。もっと簡単に解釈しちゃうと、「お茶の入ったペットボトルをぎゅっと握ると、全体に同じだけ圧がかかる」と解釈しちゃって良いと思います。
ここで全体に同じだけ圧がかかるというのがポイント。
もし面積1の物(例えばマスターシリンダー)をギュッと押した場合、一方に面積10(例えばキャリパーのピストン)があったとすると、その面積10の物にも同じように圧力がかかるということ。同じだけ圧力がかかるのであれば面積が広い方が受ける力は大きいということです。
面積1(マスターシリンダー)を10の力で押したとすると、面積10(キャリパーのピストン)も10の力で押されるので100の力で押されるということです。
こうやって倍力させて少ない力(握力)で十分な制動力(パッドがローターを押さえる力)を発揮させているのです。
但し力と反比例して押される量は減ります。
上記でいうと、面積1のマスターシリンダーを押したときに動くキャリパーピストンの量は1/10になります。
さてラジアルポンプ、同じだけ握ってもいっぱい動くのであればそのまま装着しちゃうとどうなるか?っていうとタッチは柔らか、そして鬼効きということになりそうです。
シマノでは975のブレーキレバー(もちろんSTIも)は従来のキャリパーと互換性ありと謳っております。ということは従来のアキシャルタイプと同じ圧で押し出すということです。ということはマスターシリンダーのピストン径が大きいということです。そうなっているはずです(ブレーキレバーのレバー比も変わっているかもしれませんけど)。そうやって伝わる圧を調整しているはずです。
ところでマスターシリンダーのピストン径が大きくなるとどうなるのかというと、キャリパーピストンとの面積比が小さくなるので倍力効果は薄れるのでタッチはカチッとします。またマスターシリンダーのピストンが微少に動いてもキャリパーピストンへフルードをいっぱい送ることになるので握り代も減ることになります。ここがポイントです。
アキシャルタイプに比べ”タッチはしっかりし、ストロークも短い”そのようなメリットがあります。
とは言うものの、特にシマノのブレーキのタッチやストロークに不満は感じていませんでしたけどね。できれば”あの”ブランドのブレーキがラジアルマスターになってくれれば…なんて思ってしまいます。
さて図−2を描いて気付いたのですがアキシャルタイプはシータが小さいと変位量が少ない上に変化量も少なくなるのですね。
どういうことかと言うと、例えば写真−1は私のバイクで撮った写真なのですが、レバーを握ると点Aから点Bまで移動するわけですが、その角度はおおよそ15度くらいです。マスターシリンダーを押す方向を基準にして考えるとレバー握りはじめ(A点)の開き角は20度くらい?、B点では5度くらいでしょうか。もっとレバーを開けばA点、B点とも角度は大きくなり、ハンドルバーに近づければA点、B点とも小さくなります。場合によってはB点はマイナスにもなり得ますね。
で、5度おきの変化率をグラフ化したのが左の図−3。
見方は例えばレバー初期位置が20度だと5度握ったら15度という事になりますよね、そんな風に5度毎の変化率をグラフにした物です。率だから1に近いほど変化が少ないのでリニアになるわけです。
なお0度付近で計算を終わらせちゃったのでグラフは終わっちゃっていますが、実際にはこの仮想延長で続きます。
図−3よりアキシャルは25度あたりから0度に向け変位量が少なくなってくる=レバー比が小さくなってくる=マスターシリンダーを押さなくなってくる=キャリパーピストンを押さなくなってくるということがわかります。逆を言えばそれなりに制動力を発揮させようとするとそれなりに握らなければならないということです。だからレバーをハンドルバーに近づけるとストロークが増えタッチが柔らかになってくるのですね。これは経験的にも感じますね。
しかしラジアルはここら辺の変位量がほぼ直線的になっています。ので、レバーをハンドルバーに近づけてもタッチ、ストローク共にあまり変化しないと言えそうです。
というわけでなかなか魅力的なレバーですね。
今回はいつも以上にくどいお話でしたm(_ _)m