整備日誌
 ブリヂストン スーパースピード SS-10

私の知識のなかったブリヂストンスーパースピードに関し詳細な情報を提供して頂きました方がいらっしゃいます。
その方(gustimoto様)よりウエブサイトを紹介して良いとの了解を得ましたのでご紹介させて頂きます。
https://gustimoto.blog.fc2.com/blog-category-9.html
スーパースピード、たくさん種類があります。
この中から今回の自転車がどれになるのか、特徴と照らし合わせながら調べていくと、どうやら1971〜1972モデルらしいということが推測できました。
色々紐解けてくるとやる気になってきます!
では作業開始!!


BB編
2024年12月20日
まずは最初に依頼のあったBBのグリスアップ。
クランクを外しBBを外します…外しま…外し……
ん?工具をかけるところが、いわゆるカニ目レンチをかける2つの穴というかポッチがあるのですが、通常のカニ目レンチをかける穴より大きいので工具が外れてしまいます。しかも間隔が弊店で持っている工具と合わなく、押さえながらやっても外れてしまいます。
そこで汎用のアジャスタブルなカニ目レンチを使う。
しかし力かけても緩まず…そりゃそうでしょう、きっと半世紀ぶりに開けるわけでですから。
ハンマーで工具をたたいても回らず…というか工具が外れてしまう。ならば工具が外れないようにあらゆる物とアイデアを使って工夫したけれど回らない。というか工具が壊れそう。
だいたいこれ用の工具って今あるのだろうか?
調べてみたけれど見つからない。
困った。とても困った。依頼された仕事の一歩目から作業出来ず…はマズい。
マズいけど外れない物は外れない。
しかし色々と試しているうちに手応えが!
これは頑張れば緩む!と自分に言い聞かせトライすること数日(もちろん他の仕事も平行しながら)、ついに緩みました!!!!

そして外したBBがこちら。

クリーニング前の状態です。
グリスは固まっているものの、カチカチではなくある程度ねっとり感は残っています。
そしてグリスが残っていたせいか錆は無く、また変な異物の混入も無く意外や?悪くはない状態でした。
クリーニング後の状態です。
軸、ワン共に若干の打痕が確認されるものの年式や状態を考慮すると悪くない状態でした。
鋼球もメッキはがれ等なく虫喰いもさほどない。
ただ左側の当たりが若干強めでしたので左右とも鋼球を交換しました。

ついでにフレームの方を見てみましょう。

クリーニング前の左右のBBシェルです。
フレーム側も残っていたグリスのおかげか錆等も無く悪くはない感じです。


 きれいにクリーニングしBBシェル端面も面出ししました。


おおよそ部品を外して…
2024年12月29日
BBの作業を終えて一段落。
気分も晴れて色々とバラし始めます。
そして右のようになりました。
バラしていて気づいたこととして、フェンダーステーのねじが内側にあって色々やりづらかったです。
ランドナー車など当時の自転車は見栄えのために隠しねじになっていたりそういうことは多々ありますね。
当然ダイナモからヘッドライト、テールランプまでの配線も目立たないように隠してあります。
そういうのって職人気質っぽいのを感じます。
今は組立のリードタイム優先で、いかに短時間で組み立てられるかという感じになってきていますので、こういうシブい仕様はまず見ないですね。


それからブレーキの台座に雄ねじが切ってあります。ですのでボルトで留めるのではなくナットで留めます。
私ももう30年以上自転車屋をやっていますが、カンチブレーキで台座に雄ねじが切ってある物は初めて見ました。
そしてダブルナットで留まっていました。
緩み止めなのでしょうか?それともキャリア台座として使えるようになっているのでしょうか?

またフロントハブの幅は94mmで今時の一般車と同じ幅でした。
リアハブ幅は127mm(126mm?)でしたが、フレームの幅は129mmでした。
過去タイヤ交換などの際に”裏技”を使われて広がったのか?
でもリアエンドの細工などもちょっと原始的というかコスト的にそこまでかけていない?と思われるので、はじめからフレームが広かったのかも。
今時の一般車なんかも結構アバウトですし。


ヘッドパーツ
2025年1月5日


ヘッドパーツの状態はとてもよかったです。
グリス等はコテコテに古い物が付いていたけれど、当たりはほぼ均一で強い点当たりなどはありませんでした。
当時は今ほど環境問題などシビアではなかったから(?)メッキが良かったのでしょうか?


クリーニングしたら下の写真のようにきれいになりました。
錆は致し方ありませんが。


フロントハブ

バラしたらこんな感じでした。
右側は茶色く固まったグリス、左側はグレーがかったグリスが残っていました。
そして左ワンがぽろっと外れました。

しかしワンはいい状態です。

左側のハブシェルです。
グレーがかったグリスが残っています。
 
そしてクリーニング後が下の写真

ハブ軸 クリーニング後
ハブシェル クリーニング後
 
外れちゃったワンですが変な虫喰いなどはなく良い状態でした。
鋼球はさほど悪くない状態でしたが玉押しの当たりが強く均一ではなかったため交換しました。

玉押しの当たりはちょっと強めでした。
玉当たり調整をするとちょっとコリコリ感があります。
玉押し当たり面の不均一と左ワンのガタが原因
と思われます。



リアハブ



ハブをバラす前にガタがありました。
作業を進めていくと左右ともロックナットが緩んでいました。
グリスは左右ともかたまり気味で、玉当たりは右に比べると左が少し強いようで鋼球の光沢も左がくすみ気味でした。


グリスはかたまり気味とは言え存在していたことでハブの状態としては悪くはない感じでした。

当たりは均一と言うほどではありませんが虫喰いなどはほぼありません。
フロント同様にリアも鋼球は交換しました。
組み上げると案外スムースな回転でした。

上のクリーニング前の写真は左ワンですが、こちらはクリーニング後の右ワン。
スポークホールが左は丸穴ですが右は蝶穴になっています。
おそらく張力が高く折れやすい右スポーク交換の際にスプロケットを外さずにできるようにしているのだと思われますが、蝶穴だとスポークの頭がフランジ全体に当たらず首が開きやすいというデメリットもあります。




スプロケット
2025年1月25日
ある意味一番楽しみだったのがスプロケットとフリー。
私が自転車屋になった頃はスポーツ車がボスハブからフリーハブにほぼ変わった頃。
ですのでボスフリーに触れる機会はあまりありませんでした(脱着くらいは今もよくやりますが)。
でも当時自転車屋になりたてだったので色々勉強しました。触れる機会は少なくともそれまで主流だったボスハブ&フリーですから資料はありました。
ボスフリーはそれに合ったメーカーごとのスプロケットが必要で、同じ歯数でも装着する位置によって使用するスプロケットの溝が違うなど知らないとすごく困ります。
さてこのスーパースピード号はサンツアー(前田と言った方が"らしい"か?)のアルファフリーが装着されています。
早速バラし始めます。
が、スプロケットが緩まない…
ボスハブはペダルを踏み込めば踏み込むほどスプロケットが堅く締め付けられていきますのでこういうことは多々ありました。
そして、やはりというかおそらく半世紀ぶりにというか、たぶん組立後始めて?緩まされるスプロケットとすると、かなり難儀なのは何となく予想していました。
でも実際その状況になるととても困る。
過去にもなかなか緩まないことはありましたが(特に脚力の強い人の自転車)なんとかなりましたが今回は手強い。
いくつかの工具で試したり、裏技使ったり、またある意味私の師匠とも言える弟(自転車屋歴は彼の方が長い)に相談したり。
でも緩まない物は緩まない。
BBに続いてこれか…と落胆するもBBが外せたんだから…と頑張ること数日、ついに外せました!
なおフリー自体はさほど苦もなくハブから外せました。

ブリヂストン スーパースポーツSS10ですから10段変速。
と言っても今風な1X10であるわけはなく、2X5=10段ですからリアは5段変速。
歯数は15X17X19X21X24の5段。
資料には載っていない0.2mmのシムが入っていました。
当時からそういうのってありました。微妙な位置合わせなのでしょうか?



フリーホイール

そして中を見てみたいという興味から楽しみだったフリーホイールバラし。
フリーはハブから苦もなく外せたけれどバラせるか?
レストア?オーバーホール?としてどこまでやるかですが、やっぱりさわる機会がないからこそバラしたい気持ちになります(笑)。
というわけでバラし始めるわけですがやっぱりここも蓋が開かない。
ほぼ間違いなく初めて開けることになると思うので(ボスフリーをここまでやる人はそうそういないので)難儀するのは予想していたのですが、やはり開かないと気持ちが萎える。
BB、スプロケと今のところ苦戦しつつも2戦2勝(笑)。ここは気分よく3戦3勝にしたい。が、やっぱり緩まない。壊す前にあきらめるべきか?
最悪壊してしまったらごめんなさいで上級グレード(のデッドストックがお店にあったりする)に無償バージョンアップを提案しようと少し気を楽にしてチャレンジ。
だけどやはり無事に開けたい。
というわけで工夫をこらして色々やっていたらバラせました!!
と言うわけでご開帳〜

蓋が外れました。
上から見るとこんな感じ。小さなベアリングがたくさん入っています。
この下にもう1列、もっとたくさんベアリングが入っています。

そしてバラすとこんな感じ。
こちらはクリーニング後。
左上からスプリング、爪、オス、メス
蓋、当たり調整用のシムです。

蓋は鋼球の当たり面にもなっています。
当たりはいい感じです。
イメージできるかですが、上の写真のオスに爪を組み込んで、外れないようにC型のスプリングを取り付けます。そうするとスプリングの力で爪は立ちあがります。
そしてこのオスをメスに入れて上から見るとこの写真のようになります。
メスの外周にはスプロケットが付きます。
ここでペダルを漕ぐと、クランク→チェーンリング→チェーン→スプロケット→メスと動力が伝わります。
オスはハブに固定されています。
オスの回転速度をメスが超えようとするとメスの内部がスプリングで立ち上がっている爪に食い込み(メスが右回転)加速できます。
足を止めたり、ペダルを逆回しするとメスは逆方向(左回転)に回り、そうするとメスはスプリングで立ち上がっている爪を叩きながら逆回転するので動力は伝わりませんし空回りします。
足を止めたりペダルを逆回しするとカタカタ音がするのはこの爪を叩く音なんですね。


ペダル
2025年2月3日
ここまできたらペダルもチェックです。
三ヶ島のシルバンロードペダルです。
シルバンロードはいつからあるのかわかりませんが、半世紀前に既にあったのでしょうか?
あったとしてもこの自転車にこのペダルが付いているとは思えず、きっとオーナーさんが何かの時に交換された物と思われます。
後日伺いましたら、やはり交換されたそうです。
バラす前にペダル軸を回すとゴロゴロ感はないものの、あたかもグリス切れのような抵抗のなさ。
しかしいざバラしてみるとちゃんとグリスは入っていました。
しかしクリーニングすると鋼球のメッキ剥がれが見受けられました。
ただワン、玉押しとも悪くない状態でしたので鋼球を交換しました。


フロントディレイラー

フロントディレイラーのクランプはヒンジタイプではなく二分割のクランプです。
ちょっと写真ではわかりづらいですがケージ以外は鋳造?のような質感。
締めすぎると割れる?可能性もありそうでちょっとビビります(笑)。
またトップノーマルとなっています。ので、ワイヤーが切れてしまうとアウターに入ってしまいますから登りで切れてしまうと地獄を味わいそうです(笑)。
 
サンツアー(前田と言った方がそれっぽいか?)のスパートというグレードの物のようです。
上側からの写真。
クランプバンドの左に小さな穴とその上にネジっぽいのがありますが、まさにこの穴をワイヤーが通りネジで締めます。
そのネジなんですが6mmの六角ネジ、もしくはマイナスドライバーで回せるようになっています。
この頃は6mmの六角ネジって一般的だったのでしょうか?
スパナorメガネorソケットレンチで回していたのでしょうか?
一般的ではないとすればマイナスドライバーで留めていたのでしょうか。
ドライバーではあまり強く締められないでしょうから、万が一ずれるとネジの先っぽがダイレクトにワイヤーを留めているわけですからワイヤーもほつれてしまいそうです。
そして緩んでしまうとアウターに戻ってしまうので、万が一を考えるとあまり好ましくないような気がします。


リアディレイラー

リアディレイラーはサンツアーのVという物のようです。
それ以上はわかりません…
クリーニング後


クランク

スギノのマキシィクランクです。
と言っても私にはよくわかりません…
チェーンリング固定ボルトはHEXではなく六角ボルトが時代を感じさせます。
そしてボルト径も細い
ですね。
インナーチェーンリングはアウターチェーンリングに固定。
アウターはクランクアームにダイレクトに留まっていますのでアウターは交換できません。

ところでこのクランク、本来は巻き込み防止のチェーンリングガードが装着されているはずらしいのですが付いていません。
単純に外してしまうとネジの長さが合わずアラが出てくるのですがきれいに収まっています。
そこらへん、ちゃんと対応したのかな?

後日オーナーさんに伺いましたらやはりガードは外したそうです。


ブレーキ
2025年2月22日
ブレーキもお預かりする際に気になったところでした。
パッと見て見たことがないブレーキでしたしアーチワイヤーにほつれが…
単なるほつれなら交換すればよいのですが、そう簡単にいかなそうなのは一目でわかりました。
なかなか面倒そうだと気乗りせず(笑)作業に入ります。が、その後ちょっとしたドラマが待ち受けていようとはこのときは知る由もありませんでした。

ブレーキを外した状態。
はじめの方でも書きましたがこのブレーキはフレームにナットで留まっていました。
私の知るカンチブレーキはボルトで留まっているものばかり。
もしこのブレーキに問題があったときに現在流通しているブレーキが使用できるのかわかりませんでした。
ので、あまりさわりたくありませんした。
ブレーキをバラしてみました。
左に袋ナット、そしてナットがあります。
DIACOMPEの刻印があります。これがその後のドラマ?になろうとは。
ブレーキシューをバラしました。
ちょっとピンぼけですがシューのステムにはねじ切ってあります。
そして今時のVブレーキのシューと似ている球面状のスペーサーでブレーキ本体に挟みナットで固定します。
写真の角度が悪くてわかりづらいのですがブレーキ本体上側にはステムがはまる溝があり、そして球面状のスペーサーで挟んでいます。
が、ブレーキ本体にはステムがはまる溝があるだけなので上下方向にはシューを振れますが前後方向には自由がききません、溝ですから。
球面スペーサーなのでシューがどうにでも動きそうですがそういうわけにはいかないブレーキです。
フレーム側の精度が求められそうです。
外したアーチワイヤーです。
この時点ではほつれていた方のワイヤーが外れなかったのでまともな方のワイヤーです。
さてこのワイヤー、両端がタイコになっています。切って留めてということができないワイヤーです。
すわなち同じ形状、同じ長さの物でないと具合良くありません。
しかもタイコの形状がブレーキ用とは異なります。
シフトワイヤーのタイコと同じようです。
しかもワイヤーの太さが1.2mm。まさにシフトワイヤーです。
こんなワイヤー見たことない…

さてアーチワイヤー、そういうわけで同じ物を探さないとなりません。なんてったってワイヤーほつれてしまっていますから。
色々探してみたのですが似たような物はあっても形状が違ったり、形状が同じでも長さが合わなかったりで大変困りました。
こうなったら最後のつて、製造元のDIACOMPEさんにお尋ねしました。でも現在のパンフレットには載っていないし、非常に古いのでもうダメ元です。
そうしたら、なんと社長様直々にメールを頂きました!!!!
おそらくもう社内にはこのブレーキを知っている方がいないであろうからか、それとも社長様の懐かしさからかはわかりませんが色々教えてくださりました。
ただブレーキ本体はもちろんのこと、パーツ類も既に無いとのことでした。
ちょっと困ったことになりました。
それはともかく話の流れで色々お話を伺うことができました。
ウエブ等で公開しても良いとお許しを頂きましたので記録として残せればと思い以下に書き連ねます。
社長様曰く、このモデルは約55年前、社長様も中学生のころに使っていたそうです。
当時はカンチレバーブレーキが未だ吉貝さんでは開発されていない頃でしたので、MAFACのドライバーを模して造られたようだとのことです。
(遊輪館 注 : 社長様は「模した」という言葉を使用されておりますが、当時は自転車関連のみならず色々な製品が海外の優れた物を参考にしながら解析、改良しつつ、製品技術や生産技術を磨いていた頃と思われます。単なるコピーではなく「より良い物を作ろう」という熱いモノがあったと思われます)
当時は鋳物製の本体を使っていたと思われ、経年劣化を起こして強度面で不安を感じるとのこと。
安全面を考えれば使用なされない方が良いのではないか、というのが社長様からの正直なアドバイスでした。
可能ならパーツとして保存していただければ嬉しいとも付け加えてくださいました。

もしブレーキを交換となると何が使えるのかわからない。当該フレームの台座寸法をお伝えしたところ、現在DIACOMPE様のラインナップにある、DC980EX及びDC980が使用でき、CR-X及びGC999も使用可ということでした。

以上につきましては社長様からのメールを抜粋したのですが(と言ってもほぼ原文)、こういうことはちゃんと残しておかないと消えてしまったり、もしくは推測話で事実とは違う解釈がされてしまう恐れもあり、迷惑な話でないのなら是非残しておきたい!と伝えましたところ快諾頂きましたので更なる歴史的なお話の原文を載せます。

以下吉貝様からのメールです。

さて、株式会社ヨシガイの前身となる吉貝機械金属株式会社 は昭和38年(1963年)頃からアルミ冷間鍛造を始めました。
当初はスイスWEINMANN(ワイマン)社の技術を導入し、サイドプルブレーキ、その後にセンタープルブレーキ、そしてカンチレバーブレーキの生産を始めました。
最初のカンチブレーキが何故 鋳造製だったかということですが、カンチレバーブレーキはその頃、国内ではまだあまり普及していなかった為、大量生産する必要性が無かったのだろうと思われます。
輸入品のMAFACドライバーも鋳造製でしたので、同じ製法で比較的作りやすい鋳物技術を採用して最初のカンチブレーキが作られたと考えられます。
1970年代に入りカンチブレーキの需要が高まり、1975年以降1980年からは国内だけでなく米国への輸出が始まり大量生産の必要性と強度面を考慮して最初の冷間鍛造性カンチブレーキ『DC960 』が開発されました。
私が吉貝機械金属鰍ノ入り開発を担当し始めたのがちょうどこの頃です。それ以降はDC962、DC980、DC981などのモデルが開発されツーリング車だけでなく、MTB創世期には多くのカンチブレーキが使われていたことを記憶しています。

以上、何かの参考にしていただければ幸いです。

以上のように社長様のメールでも”推測”と表記されているところが多いです。
しかし創業家の方でその後、開発担当をされてもいらっしゃる方のお話ですのでこのお話は真実なのではないでしょうか。
たった一つのブレーキからそのブレーキの成り立ち、そしてそれを生業とされている会社の歴史的なことまでご教授頂き大変光栄です。
もちろんそこにはブリヂストン スーパースピードに関して豊富な情報をお持ちのgustimoto様の橋渡しがあってこそのご縁です。


ライト関係
2025年3月21日

この自転車はリアホイールにダイナモがあり、前照灯及び尾灯に電源を供給しています。
しかしお預かりしたときには尾灯は点灯するものの、前照灯は点灯しませんでした。
というわけでライトを点検。
実は電気は苦手なところ。
だけど構造的には簡単なので導通と発電さえ確認できれば…と思い始めたのですが、これが結構くせ者でした。

まずはダイナモの発電を確認。
このダイナモは前照灯(H)と尾灯(T)に電流を振り分けられるようになっています。
テスターを当ててみると両方とも発電した電気は流れていましたのでダイナモはOKと判断しました。
次に配線です。
断線していないか確認しました。
全て導通あり。OKでした。
次は電球です。こちらも左右とも導通あり、OK。

そうするとアースか?
たいがいライトが点灯しない場合はアース不良が多いので。
ギザワッシャーが付いているライト側と相手側(ライトホルダーと言えばいいのか?ま、キャリアになるわけですが)がアースになるのでここの導通を確認すると問題なし。
ちょっと行き詰まる。どういうことだ?
あと考えられるところとしてプラス側か?(配線が繋がっている部分)
と言うわけでプラス側(写真の右ネジ部)と…
ライト内部の銅の端子(というかプレート)の導通を確認すると導通なし。
そうか、端子が腐食して銅の端子との導通がないのか。
と言うわけでヤスってみると導通を確認できました!


思っていたよりか手間がかかりましたがこれでライトは点くはず。
配線繋いで点灯確認をして作業完了…と思いきや、右は点くものの左が点灯していない。
どういうことだ?
と言うわけで左ライトを再確認。
右は点いていたわけだからダイナモの発電はしている。
ダイナモから左ライトまでの配線の導通はあり。右の配線も導通OK。電球も導通はある。
ということはライトからアースまでのどこかで導通がない?ということか?

一つ一つ調べていくとライトをキャリアに留めている”ボルト”とライト本体の”カシメ”部の導通がない。右側はあります。
ならばということでボルト、歯付きワッシャー、スプリングワッシャー、ナットを磨きます。
しかし再装着後確認するも点灯しない。
今一度テスターを当てるとライト本体の”ステー”と”カシメ”に導通がない。

と言うことで”ステー”と”カシメ部”を磨いてプライヤーで再カシメ。
導通を確認出来たので再装着。
しかしライト点灯確認…できず…

うーん、どういうことだ?


今一度冷静になって考える。
ステーとカシメの導通はある。
何故点かないのだろう?
段々訳わからなくなってくる。
こういうときは一度この仕事から離れて日を置いて再確認。
後日初心に返り、ダイナモから、配線から、ライトも色々あちこちテスター当ててみる。
と、ライトを留めている”ボルト”と”ステー”の導通が不安定。
導通があったり無かったり。
ここは磨いたはずなのだが…
頭にきたのでボルトの六面および歯付きワッシャーが当たる面を再度しっかり磨き、
ねじ山ももう一度磨き、キャリアの当たり面も磨き再装着。
導通を確認すると安定して導通あり。

今度こそと思い車輪を回すと無事左ライトも点きました。
せっかく写真を撮ったけどこれは右が点灯したときの右ライトでした。
<m(__)m>
とても長かった…
それにしても哀愁漂う昭和なともしびです。
ところでこのライト、結構興味深いところがありました。


電球を留めているところが花びらのようになっています。
そしてはまりこむ本体側を見ると2枚の銅の鉄板があります。

幅の広い方は電球のおしりに接するプラス。狭い方がマイナス側になります。そしてマイナス側が少し手前に来ています。
左の写真を見ると気づくかと思われますが、花びらがうまくマイナスの銅板に当たるようになっており、電球のおしりはプラスに接します。
2枚の銅板、プラスとマイナスがちょうどいい位置にオフセットされて設置されており回路としてできあがっています。
なかなか凝っている作りですが位置関係がちょっとずれると点かなくなりそう。
最近のダイナモライト…(と言っても最近はLEDだからちょっと前のダイナモライト)は電球をねじ込む部分に皮膜を剥いた線があり、電球をねじ込んでいくとねじ部が線と共にねじ込まれアースされるようになっています。
コスト的にも構造的にも近年の物の方がいいような気がします。

さて花びらの写真をよーく見ると赤い部分、ねじ切ってあります。ので、外すときは左に回せば外せます。
LEDではない、ちょっと前まであった電球タイプのダイナモライトはほとんどがビスによるネジ止めもしくは爪で引っかけるタイプになっています。

更にライトの中に電球があります。
これ予備球です。
昔のライトって内部に予備球が付いていました。
当時は今より道が悪かったせいか、それとも作りが良くなかったのかよく電球が切れました。
なので内部に予備球があったのですが、レンズを回して外れるのなら万が一電球が切れてもすぐに対応ができますね。
ビスで留まっているとドライバーが必要。爪で留まっているタイプの物は年数経ってくると樹脂が劣化して爪が折れてしまいがち。
と言うわけで当時のライトは(弱いが故に)とても理にかなった作りになっていたんですね。と、再確認しました。
ただレンズと本体の間にパッキンのような物はありませんので雨には弱いかも?

というわけでライトでこんなに記事が書けるとは思いませんでした。



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