整備日誌 番外編   工具うんちく話

〜序章〜

まずは一般的な工具について。
そもそも工具がこんなにも表に出るようになったのはやはりスナップオンの影響と言えるでしょう。高価格ではあるがそれを納得させる造り、表面処理、電話一本で駆けつけるという販売方法、そして永久保証という付加価値は、特に自動車整備士の方々の間で、あたかも理容師の方が持つはさみや、調理師の方が持つ”関の孫六”のような「プロの道具」として評価され、その独自のブランド力を確立したものと思います。
さて、オタッキーでもある私もプロのはしくれとしてスナップオンにあこがれ、使用したりもしました。が、こと自転車の部品を扱うとなると意外や使いづらかったりしました。今当店で使用している工具のメーカーは様々な物があります。
スナップオン、ハゼット、ベルツァー、HAYCO、スタビレー、KTC、PB、ベータ、マック、バーコ、ファコム、NKC、等々。

あと何かあったかな〜??
もちろん上記全てを揃えているわけではなく、一個しかない物もあります。
自転車屋としてお仕事をしていると、一般的によく使用すると思われるラチェットは意外やあまり使用せず、HEXやコンビネーションレンチを主に使用します。
その訳は....
次回にしましょう。(^^;


〜第2章 スナップオンじゃダメなわけ〜

なぜラチェットをそれほど使用しないか?
まず、自転車のねじ類は小さいものが多いです。故に起動トルクも小さく、ラチェットではフリーに噛んでくれないことが多いです。
次に自転車のねじ類は”物を固定する”というねじ本来の機能と共に、位置調整という機能も果たすものが多いです。位置を調整すると言うことは、ちょっと締めたり緩めたりと微調整しながら行うわけで、そうするといちいちラチェットだとフリーの方向を変えなければならないのでとても面倒。
また、当たり前ですが使用するねじに合わせソケットを替えなければなりません。面倒。かと言って頻繁に使用するソケットの数に合わせラチェットレンチを用意するのも金額が張るし....
そして重い!ということです。

さて、私がスナップオンをいまいち気に入らなかった理由、それはカンチブレーキの調整でのことでした。
カンチブレーキは通常10oのコンビネーションレンチ(スパナもメガネもダメ)と5oのHEXで行います。特に10o側は裏にフォークがあったりして調整しづらいうえに、ナットが結構薄い。この薄さがガンでした。
スナップオンの工具はきっと自動車用などトルクをガシッとかけるところに適している工具なのでしょう、カンチの調整にはナットをかけるところが厚すぎます。故に斜めに力が掛かりなめてしまいがちです。しかも面取りが大きいのもナットに斜めに工具がかかってしがいがちでした(言葉では言い表しづらい....)。
お気に入りはベルツァーとスタビレー。どっちかというとベルツァー(キーボード打ちづらい....)が好きです。
なお、カンチの調整の際にスパナやメガネではダメな訳、それは上記にも書きましたとおり裏にフォークがあったり、シートステイがあたりするので工具を入れるクリアランスが少ないこと。故に通常の45°曲がりのメガネでは工具そのものが干渉してしまいがちですし、その曲がりの分だけ斜めに力が掛かってしまいます。曲がりゼロのメガネならもちろんOKです。が、一般的にはあまり売っていません。
スパナはもちろん本締めには使用してはいけません。
といわけで曲がりが15°程度のコンビネーションレンチが使いやすかったりするわけです。
しかし時代と共にパーツも変わってきました。

というわけで次回に続く。引っぱるなー.... (^^ゞ


〜第3章 Vブレーキの登場〜

と、たった一点でのみ評価していますが、自転車を組んでいるとこの作業は避けて通れないのも事実。その都度ベルツァーやスタビレーはいいなーと思いつつ作業をしていました。
しかし、今から数年前シマノからVブレーキが登場しました。
今までのカンチブレーキだと、制動力を重視するとレバータッチが悪くなり、また逆もしかりでした。それがVブレーキの登場によって一挙に解決。軽くカチッとしたレバータッチで絶大なる制動力を発揮するVブレーキはあっという間に世間に広がり、たとえXTRと言えどカンチブレーキじゃ見向きもされなくなってきました。いや、ホント、Vブレーキっていいと思います。
そしてこのVブレーキの登場によりブレーキシューの固定方法もHEXレンチ一本でできるようになりました(一部除く)。するとどうでしょう?急激に10oコンビネーションレンチの使用頻度も少なくなり、Vブレーキ登場後に自転車を始めた方々には薄いコンビネーションレンチがあえて必要ではなくなってきました。でも自転車屋さんには必要ですが。
そうなってくると私がしつこくこだわってきた工具じゃなくてもOKなわけです。
というわけでスナップオンファンの皆さん、お気を悪くせずせっかくの財産を胸を張ってご使用ください。

次は工具別おすすめブランドを紹介したいと思います。


〜第4章 それでもスナップオン〜

おすすめ工具を紹介します。

・スパナ、コンビネーションレンチ、メガネレンチ
上記に書きましたとおりスタビレーやベルツァーです。メッキが薄いとか剥がれちゃうとか言われたりするみたい?ですが、自転車用としてはこの2社のものが使いやすいです。
ベルツァーってあまり売ってるのを見ないんですよねー。
それからミラーツールってダメですね。これって対スナップオンで出たモデルのはずです。にもかかわらず曇ってきます。機能がどうであれ(機能的にもあまり好きじゃない)光沢で勝負したのに曇ってくるようでは負けです。

HEXレンチ
これはもうかなりの方が支持しております、PBです。メッキ処理されたレンチはエッジ部が摩耗しづらく信頼できます。

ドライバー類
これもPB支持者が多いです。スナップオンのプラスは先っぽが日本のプラスねじに合わないとか???

ラチェット
FACOMがお気に入りです。ヘッドの形が小判型のスナップオンやKTC等が36ラチェットなのに対し72ラチェットなので、レンチをあまり振れなくてもラチェットが噛んでくれます。このラチェットの細かさはあたかも旧デュラエースのフリーを思い起こさせ、回していてとても気持ちの良いものです。そして起動トルクが小さいというのも魅力です。
しかし不満がないわけではありません。写真ではわかりづらいのですが、ヘッドと握りの間の形状が四角くなっており、力を入れて回そうとすると指が痛いこと、そしてグリップが回っちゃうこと。
で、NKC。おそらく大半の方が知らないでしょう。このラチェット、コマがないのです。そう!無段ラチェット!ちょこっとでもレンチを振れれば回せる!というスグレモノ?です。今では他のメーカーでもこのような物があるらしいのですが、当時(7〜8年くらい前かな?)は唯一でした。
そのNKCの存在を知ったときには「是が非でも欲しい」(というか使ってみたい)と思い直接メーカーに問い合わせ購入しました。一般的には売っていなかったので。
し・か・し....
精度悪すぎ。無段フリーの要であるベアリングがゴロゴロしている。故に起動トルクが大きい。使用感も良くない。メーカーに文句を言ったが取り合ってくれなかった。また、ソケット差込部の精度も悪くちょっと緩い。
というわけで期待した割には裏切られました。構造としてはきっとシマノのFH-R080と同じようなものなんでしょう。
なお自転車用には差込角1/4"が良いです。また、HEXのソケットは面接触の物はあまりよくありません。特に小さなボルトを使用しがちな自転車ではボルトに食い込んでしまいます。
ソケットってどこのが良いんでしょうか?

お気に入り
なんと言ってもこれ、スナップオンのスパナ。32oと36oのスパナでしかも薄めです。実はスナップオンのレギュラー品ではないらしい。特注品みたいです?薄いのはヘッドパーツ用だから。本当はメガネが欲しいくらいなのですが、なかなかこのサイズでメガネはないようです....
LOW TORQUE ONLY と書かれていますが、ケリ入れて使うこともあります(基本的にはやってはいけません)が、それでも今のところ大丈夫。壊れないうちにメガネが欲しい....
そしてスタビレーの16oX17oの曲がりなしのメガネ。ベアリングの玉押し調整に大変重宝します。これで32oX36oがあれば....

以上、私の限りある使用経験の中で書き連ねました。使ったことがない工具で実はもっと良い物があるかも知れませんし、改良され使い勝手が良くなったものもあるかも知れません。
これの方が絶対いい!というおすすめがありましたら教えていただきたいくらいです。ただし自転車整備に使用するという条件のもとで。

整備日誌へ戻る