整備日誌    2004年5月編

5月21日
今回のクランケはTKHSさんのロックショックスのSID。
症状としては使用しているうちにロングストロークになっちゃって、しかし動きは渋い。でもって、しばらく置いておくとまた元の状態に戻る、だけど動きは良くないというパターン。ま、SIDにはありがちと言えばありがちなトラブルかもしれない。と言うわけで現状把握ということで早速バラシに入ります。

出てきたオイル 1日置いたオイル

開ければ当然出てくるのがオイル。で、左写真のようなオイルが出てきました。ずいぶんドス黒いオイルです(^^;
こんな色のオイルが入っているはずはなく、これは確実にオイルが汚れています。
で、実はここで他の仕事が入っちゃって、ほんの1日ほど作業を中断することになってしまいました。が、そのおかげで面白いもの(?)を見ることができました。ってのがその隣の写真。
時間が経ったらオイルと不純物が分離したようで、写真のようにきれいなオイルと不純物が見事に?別れました。ではこの不純物は一体なんぞや?と興味は更につのるわけです。そしてバラシ作業は続きます。と・・・・


デュアルエアのO−リングが見事にぶっちぎれていました。これでは気密を保つことはできません。おそらく乗っている最中にポジティブ側のエアがネガティブ側に漏れてしまいロングストロークになったり、またしばらくすると空気圧が均等になりフォークは通常の長さを取り戻したのかもしれません。
また、O−リングがこんな状態になっていたということは、オイルの汚れ(不純物)はこのO−リングでしょうし、こんなふうになっちゃっていたら、当然O−リングがひっかかってスムースにストロークできるはずもないので動きが渋かったのでしょう。

さてデュアルエアですが、左下写真がその全貌です。デュアルエアとはその名の通り2室にエアをかけます。
ロックショックスのMAGシリーズに代表されるような昔のエアサスはとにかく上からエアを入れるのみのエアサスでした。このタイプではだいたい3キロくらいのエアを入れていたと記憶しております。ということは、常に大気圧の3倍程度の力で突っ張っているので動き始めは渋く、しかしいざ動き始めると圧縮性流体である空気を使用しているために”スコッ”とストロークしてしまいがちでした。更に縮んだエア室内は更に空気圧が上がり、伸びるときの反発力も大きいので伸びきったときに「コツン」と衝撃を感じたりしたものでした。
これを払拭するためにロックショックスはJUDYシリーズを登場させたのだと思われます。初期のJUDYはエラストマー+カートリッジダンパーでしたっけ。その後エラストマーが改良され、コイルスプリング併用になり、そしてコイルのみになり、現在は更にエアアシストと進化してきております。なお、JUDYとは言っても当時のJUDYは今と違ってハイエンドモデルでした。
そうやってJUDYが進化していきつつ更に上級グレードとして登場したのがSIDでした。
当時SIDのスペックを見たときに「なんでまたエアに戻るの?」と疑心暗鬼でした。ところがSIDはMAGとは異なり、ネガティブエアという仕組みのエアサスになって登場しました。
ネガティブとはポジティブに対する反対語ですから、ポジティブが上から入れるエアならネガティブは下から入れます。これによって今までのエアサスがつっぱるだけだったのに対し、”それとほぼ同圧のエアを反対から入れる”ことでエアスプリングとしての空気圧は高いものの、中に入っているピストンはうまい具合にバランスして突っ張らないようにできたわけです。
当時初めて乗ったSIDはマルゾッキ BOMBER Z-1に匹敵するくらいに感動したサスペンションでした。Z-1と違うのはクロカンサスペンションであること。当然必要以上に動くことはなく、「衝撃を最低限の動きで最小限にいなす」という感じでした。これは今のSIDも同じと言えるでしょう。

さて昔話が長くなりましたが、デュアルエアの分解写真をよく見ますと当然ながらコイルスプリングを使用せずにエアスプリングのみなので、いざ開けると結構単純に見えます。しかし写真の下の方に交換を待ち控えているO−リングの数は、単純な構造とは裏腹に結構数が多いです。まあ全てを使用するわけでもないのですけど。
すなわち、ポジ、ネガ各々10キロ近くエアを入れる(当然体重や好みによって変わってきます)わけですからそれなりの気密性を求められます。よってこれだけのO−リングでしっかり気密性を保持してやるわけです。
同時にSIDはオープンバスタイプではなく、フォークの潤滑に対してもオープンバスタイプと比べると不利になります。
と言うことは、低フリクションで油膜が途切れず、温度変化に強く劣化しづらい良質なグリス(オイル)をO−リング周辺に塗布してやらなければなりません。
ちぎれたO−リングのアップ写真を見ますと、シャフト周辺に黒い汚れのようなものが付着しているのがわかります。これは汚れではなくグリスです。

そういうわけでSIDは主にグリス(+少量のフォークオイル)でO−リングの潤滑を行っているので、どうしてもO−リングはシビアな状況におかれます。ので、それなりのメンテナンスは必要ですし、今回のようなトラブルも決して珍しくはないトラブルです。
あなたのSID、大丈夫ですか?

5月28日
次なるクランケはARTK氏のマルゾッキボンバーZ-1。しかも初期型。
私に言わせれば自転車用サスペンションの概念を変えさせたサスペンション。刻印は1996となっておりました。ふ〜ん、もうそんなに経つのか。
さて8年前のボンバーZ-1、オイル漏れです。まあ8年も経てばオイルくらい漏れても不思議ではないし、この当時のオイルシールはオイル漏れがおきやすかった。しかしうれしいことに、現在も8年前のパーツが入手できるというその現状。パーツさえ手に入ればあとはバラして不具合品を交換するだけ。と言うわけで早速バラシに。
まずはチャッチャッとバラしてオイルを抜く。と、左写真。
赤やドス黒いオイルは、前回SIDのレポートを書いたTKHS氏の物。今回注目していただきたいのは真ん中あたりに広がる乳白色のオイル。
オイルをぶちまけた容器が白い容器なのでちょっとわかりづらいですが、出てきたオイルは紛れもない乳白色。左右共でした。
乳白色のオイルってことは、水分の混入があったと考えられるわけです。まあオイルシールがあるにもかかわらずオイルが漏れてくるくらいですから、水が入っても不思議じゃありませんが、それにしても左右ともそれなりの量の水分の混入があったようです。左右ともにずいぶん白いオイルが出てきましたから。


で、次にもっとバラした写真がこれ。
笑っちゃうけど既に過去に紹介している、この型より新しいボンバーZ-1と同じ。っていうか最近のマルゾッキサスペンションも基本的にはあまり変わっていない(^^;
一番変わったのはディスク台座。この当時のマルゾッキって左右にディスク台座があります。で、いざ付けるとすると右に付ける(現在と逆)ことが多かったみたい。あまりよく知りません(^^ゞ
しかしこの当時はダブルディスクも可能だったのだろうか?
なお、台座位置はインターナショナルスタンダードとは明らかに違う取り付け位置です。当時のフォーミュラーがうまく付くのかな?
で、組立後無事お渡しすると、「これこれ、この動き」とARTKさんもお喜びでした。
しかし当時ボンバーZ-1買った方ってすごくいい買い物をしたと思います。だって今でも十分通用するサスペンションをお買いあげになったわけですから。ッテコトハジテンシャヤハモウカラナイッテコトカ




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