整備日誌    2005年5〜6月編

5月15日
書かなきゃならないことはいっぱいあるんだけど、なかなか時間が割けなくて整備日誌を書けないでいる。書かないうちに何をやったのか、どんな不具合があったのか忘れてきてしまうからちゃんと書かなきゃならないんだけど....
不具合があるから整備を行うこともあれば定期メンテナンスで整備を行うこともある。どちらかというと(いや明らかに)不具合のあった物を題材にしたほうが書き応えもあるし、読み応えもあると思う。
しかしこの整備日誌の趣旨は他人の不幸を笑うのではなく、日誌を読むことで何もメンテナンスをしないでいる皆さんをドキッとさせたい、いわば自転車だってちゃんとメンテしないとまずいんだよというのを知らしめるためのものです。

という前振りはいいとして今回はTKYM氏のヘイズの油圧ディスクブレーキです。
久々にDHマシンをご自宅からおろしたTKYM氏、「ブレーキのメンテもそろそろした方がいいですかねぇ」ということでご来店。過去ノーメンテのディスクブレーキで不具合を何度か見ている私としては「やってもバチはあたらないでしょう、それにブレーキだから一番重要だし....」と謙虚に、しかし整備を促すような答えをする(^^;
「例えばこれがこうなって....」などとやっていると、ブレーキレバーがもどらなくなっちゃった(^^;
「そうそうこういうことが起こり得るんです」とちょっと汗(^^ゞ
ま、でも乗っている時じゃなくて良かったということでお預かり。
ヘイズのブレーキと言っても構造は自動車やオートバイと全く一緒。まあ自動車と違ってマスターバックはないけれどマスターシリンダーはあります。で、バラしたのが右写真。
レバー操作したあとにレバーが戻るのは主に写真に写っているリターンスプリングとそして油圧の残圧によるもの。で、ちょっとこの写真ではわかりづらいのですが、外したリターンスプリングはぐにょぐにょに曲がっておりました。
う〜ん、なぜレバーが戻らなかったのか、おそらくスプリングが曲がっちゃっているのでひっかかっちゃったりして戻れなかったのか、それともプランジャーが引っかかって戻れなかったのか、とにかくリターンスプリングはぐにゅぐにゃなのでこれは交換。と思ったらこれがマスターシリンダーごとじゃないと手配されない。しかもこのヘイズは超初期型。扱い元に聞いてみると現行のとはちょっと違うらしい。が、探し出してくれました、ホッ。
と言うわけで生き返ったのだが、やはり万が一と言うことを考えて反対側もオーバーホール。で、当然というかキャリパーもオーバーホールしたのであった。
これでブレーキの心配は無くなりました。ので、是非ダウンヒルに行きましょうね、TKYMさん。

6月9日

う〜ん、更新が遅れている....
さて、今回のクランケはペダル。xpedoのビンディングペダル。約1万円で300グラムという軽さがウリのペダル。
お買いあげ頂いたKMGI氏から「片側だけグリスが出てくる」ということで検証。扱い元に確認すると、「組み立て時の余分なグリスが出てきている」ということでした。あっそうですか....で終わったら能がない。せっかくだからバラしてみました。
で、バラしたのが右の写真。
う〜ん、やはり余分なグリスが出てきたのであろうか。O−リングがまともかどうかはこれだけではわかりません。のでとりあえずこのまま組み立てて乗っていただきました。
が、それでは能がない。ので、せっかくだからこのペダルを考察。
まずはグリス。扱い元のお話では「非常に抵抗の少ないグリス」ということでしたが、たしかに抵抗の少ないグリスでした。
で、シャフト抜いてビックリしたのがベアリングが1個しかなかったこと。いや、厳密に言うと違うんですけどね。いわゆるパチンコ玉の子分のような、そういうベアリングは1個しかありませんでした。通常は2個はあるんですけどね。そんなのでいいのか???
よく調べるとこのペダルは外側にはカートリッジベアリング、クランク側には2つのブッシュがあるということがわかりました。
我々は鋼球を使っているのをベアリング、樹脂や銅などを素材とした軸受けをブッシュと呼んでおりますが、実は両方ともベアリングには違いないのです。
鋼球を使っている物を転がり軸受け、ブッシュ状の物を滑り軸受けと言います。
一般的に転がり軸受けの方が抵抗は少ないが、滑り軸受けの方が高荷重に耐えられるという特徴があります。
で、xpedo。
このペダルは軽さを一番のウリにしたペダルであると思われます。というのもトップモデルはチタンシャフトにチタンボディなんていうのもあり、これだと198グラムと言うことになっておりますから。
ということで、重量が重い転がり軸受けを使うより、軽い滑り軸受けを使っているのでしょう。
ま、ペダルの回転抵抗ってどれくらいコギに影響があるのかな?とは思います。あまりに抵抗の軽いヤツだとくるくる回っちゃってキャッチしづらいですし。でもプロ用と言える三ヶ島RX-1なんかはさすがにすごく気持ちよく回ってくれますね。
さて話が逸れました、滑り軸受けですが、これを使うことにより軸と踏み面の高さの差を少なくすることもできます。シマノはデュラエースペダルだけにニードルローラーベアリングを使い、軸と踏み面のオフセット量を少なくさせていますが、滑り軸受けならもっと少なくもできますし。しかし回転は重くなってしまう。ので抵抗の少ないグリスを使っているのでしょうね。実際回転が重いとは思わなかったし。
しかし軸方向の位置決めはどうやっているのだろう?ラジアルベアリングとブッシュでは軸方向の遊び調整ができません。う〜ん、どうなっていたんだろう?実はこの仕事をやったのもちょっと前のことなので忘れてしまいました(^^; スミマセン。


6月13日
今回もなかなか興味深いサンプルを得ることができました。サンプル提供者はSMZ氏のビアンキのMTB。おおよそ15年ほど前のモデルでしょうか。
今まで大がかりなメンテはしたことがないと言うことで、今回は初のオーバーホールとなったわけであります。

グリスが固形化し、しかも分散しています。 しかしなかなかきれいな当たりです。

そういうわけでまずはフロントハブから。
バラス前に手でハブ軸を回してみると抵抗がなく非常に軽い手応え。勢いつけて回すとゴーッと音がする。けど勢いで結構よく回る。
グリスが入っていない時によく現れる症状。
ということで開けてみるとグリスは入っていました。が、完全に固形化し、しかも摺動部には全くない。ので、あのような回し心地だったのですね。
しかしこれ、きれいにクリーニングしてやるとワンの当たり面はずいぶんきれい。ってことは鋼球自体も傷等は見られず、玉押しなんかご覧のようなきれいな当たりです。特に右側(シャフトに付いている方)の玉押しなんか非常に小さな当たり幅で、しかし爪を立てても摩耗を確認できない上等な当たりです。
今回のサンプルはシマノDEORE LX。正直当時のLX(今も?)に上等な当たりを期待すること自体シビアなわけで、そういった意味では見事に期待を裏切ってくれました。ので、このままグリスアップして組み込みました。参考までにこれをご覧頂くのもよいかと。
しかしグリスアップすることでグリスの抵抗により回転は重くなったのでありました。ま、こういうもんです。
と言うわけで次回はリアハブ。


フリー側 反フリー側
ハブ軸&ベアリング類 クリーニング後。玉の痕がわかるかな?

6月19日
と言うわけでリアハブ。
写真のようになかなかキテおります。フリー側はグリス分があるものの砂利やらなにやら入っております。
反フリー側は前ハブと同じようにグリスが固形化し、しかも摺動域にはグリス分がないという状況。
外したハブ軸やベアリングを見るとまさにワンと同じような色調になっております。反フリー側は錆なのか焼けなのか茶色に、フリー側は真っ黒に。
それでもクリーニングすると前輪と同じように意外やきれいな状態なのか?と期待を込めて汚れを落としてやると....
残念ながら鋼球自体に傷、そして玉押しにも虫食いが見られました。またワンも鋼球の痕が残っていました。

ところでこの手の”玉押しタイプ”って言うんですかね?ベアリングシステムはワンと鋼球、そして玉押しの3つからなります。ハブで言うとハブ本体にはめられているワン、そして鋼球、で、ハブ軸にねじ込まれてプリロード調整をする玉押しですね。
で、鋼球がワンや玉押しを摺動する以上どうしても摩耗はしてきます。その際一番摩耗されると困るのはどれか?
答えはワン。だってハブ軸に焼きばめ(かな?)されているわけで、交換することを前提としていないから。鋼球や玉押しはバラして交換できますからね。
と言うわけで一般的にはワンは硬度が高く摩耗しづらく、それより先に鋼球や玉押しが摩耗するようになっています。が、それはあくまでも正常な摩耗の場合。異物混入などで硬いものが中に入ってしまった場合や異常摩耗してもそのまま使い続けていたりするとワンだって傷つきます。
たまに「鋼球を売ってくれ」と来るお客様がおられますが、鋼球だけを変えてもあまり意味はありません。鋼球の摩耗と共に玉押しだって摩耗するし、場合によってはワンだって傷ついているかもしれませんからね。ま、鋼球が異常摩耗しているのなら話は別ですが。

と話が寄り道したところで今回のサンプルは玉押し&鋼球が偏摩耗しており、厳密に言えばワンにも鋼球の痕が見られました。残念ながらワンは変えられないけど玉押しはパーツ在庫のあるうちに(15年くらい前のサンプルですから)新品に交換、当然鋼球も交換しました。


次回はヘッドパーツです。


上ワン 下ワン

6月23日
さてヘッドパーツ。写真のようになっておりました。
SMZさんはしばらくこのビアンキには乗っておられず、ここへきて通勤などで乗る機会が増えてきたのでオーバーホールを依頼されました。
上ワンを見ると砂利が入ったかのような汚れ具合。そして下ワンは写真ではちょっとわかりづらいけどなかなかきれいな当たりが出ています。これちょっと珍しい。
通常下ワンの方がタイヤに近いせいか水や砂利を巻き上げ、錆びていたりドロドロになっていたりひどい状態であることが多いのですが、今回のサンプルはどちらかというと下ワンの方がきれいでした。おそらく保管期間が長かったからと言うことと、悪条件下での使用が少なかったからなのでしょうね。
考えてみればハブだって水分混入のあとは見られなかったですしね。でもやはり長年の垢はたまるものですな。


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